基礎研究

MTA (Material Transfer Agreement)とは|契約によって得られた教訓

Securing Scarce Reagents: Lessons Learned from MTA Negotiations

基礎研究を行っていると、まだ保険承認されていない臨床試験段階の薬剤を実験に使いたいことがしばしばあります。

しかし、そのような場合、実際に薬剤を手に入れるには所属の研究機関と製薬会社の間でMTAの契約を行う必要があります。

MTAとは、Material Transfer Agreementの略であり、一般では入手困難な素材の移転を行う際に結ぶ契約のことを指します。

そして、これにより貴重なサンプルの流出防止や生み出した知的財産の適切な取り扱いなどが契約によって担保されます。

私のプロジェクトでも、とある中和抗体Aを使いたいと考え、2つの製薬会社にアプローチしました。

会社側からは「最短でも4カ月かかります」と言われて驚きましたが、めげずに少しでも臨床への還元・高いインパクトファクターを目指して書類の準備にとりかかりました。

 

専用フォームの記載

まずは、それぞれの製薬会社の専用フォームを記載していきました。

そのフォームでは、大まかに以下の事項を英語で記載する必要があり、薬剤を提供するかどうかの最終判断は国外の責任者が判断しました。

(主な記載事項)

  • background
  • experimental method
  • result
  • citations
  • 具体的な薬剤の必要容量
    (in vitro, in vivoそれぞれで計算し、使う細胞株・マウスの種類も明記しました。)
  • 自分のCV
    ※手続きは各製薬会社によって異なり、あくまで一例です。

 

薬剤の入手まで

国外の責任者に直接書類をメールで送ったところ、約1週間で返事がきました。

1つの製薬会社は既に製造を中止しており、提供不可。

もう一方の製薬会社は、「プロジェクトの意義が低いので提供できない」というショッキングな内容でした。

 

落ち込みつつも早々に「結果がどうあれ、機会を頂きありがとうございました。Thank you very much for the opportunity anyways. 」という返信をしておきました。

しかし、その後すぐにメールにccしていたボスYが医局にやってきて、「簡単に諦めらめちゃダメでしょ。ここからが勝負。」と笑顔で言い残し、颯爽と消えていきました。

その後、ボスYが直接メールのやり取りを行い、自分のプロジェクトがいかに有意義か、製薬会社にとっても有益かをメールで送ったところ、驚くことに3日後には「じゃあ、やっぱり提供します。」と簡単に結果が覆ってしまいました。。。

それから数週間かけて双方の納得のいく契約書の作成を行い、両機関の承認印をゲットしました。

ようやく薬剤が手元に届いたのは、最初に提示されたとおり約4カ月でした。

 

学んだ教訓

基礎研究を行っていく上では、様々な研究機関や医師、製薬会社との交渉が必要になってきます。

その中で例え悪い知らせが来ても早々に諦めず、そこからさらに交渉するメンタル強さ、納得させるだけの英語力が必要であることを今回学びました。

この経験を今後の研究生活に役立てたいと思います。