研究留学

【Q&A】コロナ禍でも研究留学の準備が出来ますか?

海外ラボの内定 Q and A

Question

ここ最近、様々な大学院博士課程の方から「コロナ禍でも研究留学の準備が出来ますか?」「こんな社会情勢でも海外ラボにアプライしていいですか?」といった質問を頂きました。

 

答えは、「出来ます」。

 

しかし、それには幾つかの留意事項が必要です。

今回は頂いた質問に答えるために、「コロナ禍」の側面から「研究留学の準備」について書きたいと思います。

ちなみに、今回書く内容は「アメリカ」が対象となります。

 

Answer

これまでのタイムライン

まず、このあとの説明がしやすいように、これまでの私自身の「研究留学の準備」におけるタイムラインをざっと書き記します。

 

2020年

1月

・学位論文アクセプト

・ラボ選び+必要書類の作成(CV, application letter, reference letterなど)

 

2月 海外ラボへ打診開始。

 

3月 PI と1:1でインタビュー, 15min(Zoom)

 

4月 ラボミーティングでプレゼンテーション, 1h(Zoom)

 

5月

上旬

・PI から内定のメールを頂く。

・留学先の施設でコロナ禍による雇用凍結(Hiring Freeze)が発令されていたため、自分の雇用において例外申請(exceptional approval)を行う。

下旬

・例外申請(exceptional approval)が受理される。

・勤務開始日、給料などの交渉を行ったのちに雇用契約書(offer letter)をもらう。

 

6月

・海外留学助成金の申請開始。全部で10か所応募。

・J-1 ビザのための DS2019 の発行について、人事部(Human Resource)と交渉開始。

・(おまけ)呼吸器内科診療と申請書作成の合間に、USMLEを勉強してみる。→ 3か月で挫折(笑)

 

11月

・DS2019 が到着 → 間違いに気づいて人事部と再交渉。

・海外留学のための助成金を獲得。

 

12月

・新しい DS2019 の到着 → DS160 の作成・SEVIS の支払いを行う。

・ビザ面接 → ビザ到着

一応余談ですが、助成金の獲得がラボの採用条件になっている場合、助成金に採択されてから J-1ビザの交渉を始めることになります。

このタイムラインは手短にさらっと書くつもりでしたが、意外と色んな工程があったことを再認識しました。

 

コロナ禍が与えた影響

では、以上のタイムラインの中で、何がコロナ禍の影響を受けたか説明していきたいと思います。

 

インタビューとプレゼンを Zoom で行う

本来、インタビューやプレゼンは海外のラボに直接行って開催されることが多いです。

内定を頂いたラボも基本的にそのスタンスでしたが、コロナ禍の影響で、Zoom を使ってWEB上で行いました。

その時の様子や Zoom でのプレゼンの注意事項は別の記事に書いています。

...

 

Hiring Freeze

私の留学先の施設では、大量の解雇を防ぐために、新規雇用が2021年夏ごろまで凍結されていました(Hiring Freeze)。

そのため、新規採用を行うには例外申請(exceptional approval)を行う必要がありましたが、このプロセスは案外 2 週間ほどでさらっと受理されました。

確証は全くないですが、ポスドクの採用は例外申請が通りやすいのかもしれません。

 

J-1 ビザの発給に関して

今回「コロナ禍でも J-1 ビザが通常通り発給されるか」という質問を一番多く頂きました。

確かに、日本のアメリカ大使館もビザ面接を停止していた時期がありました。

しかし、少なくとも私はビザに関しては、特にコロナ禍の影響は受けませんでした。

 

J-1 ビザの交渉を開始してから、DS2019 が手元に届くまでに半年かかってしまいましたが、これは途中で人事部の担当者が引継ぎなしで退職していたのが影響しました。

実のところ、渡米までに時間的な余裕があったので、私も油断して担当者がいつの間にか退職していたことに気づくのに、約3か月ほどかかってしまいました。

10月から新しい担当者と DS2019 の交渉を最初からやり直しましたが、11月には DS2019 の原本が届きました(まあ、それも内容が間違っていたので、訂正版が届いたのは12月ですが・・・)。

その後、ビザ面接を行い、難なく承認されています。

 

留意事項

以上のように、「海外ラボの打診」や「留学準備」はコロナ禍でも行うことが出来ます。

しかし、これまで紹介したこと以外にも、留意事項が幾つかあるように思います。

※以下の内容はあくまで一例なので、それぞれの施設や州によって状況はだいぶ異なってくると思います。

※一部の内容は、既に研究留学中の方やアメリカに永住している身内からの情報を含んでいます。

 

実験室への入室制限

まず、いざ渡米してもコロナ禍では研究できる環境が普段とだいぶ違ってきます。

例えば、私が留学するラボは現在25~50%稼働率で運用されており、実験室の入室には人数制限が設けられています。

そのためか、現在はポスドクのプロジェクトの進捗状況がとても遅くなっているようです。

また、初めての環境で実験を行う私にとっては「誰かに何かを聞く」ハードルがとても高くなっており、最初はかなり戸惑うことが予想されます。

実際、ラボに既に在籍している日本人の方からは「自分の研究留学が厳しいスタートになる」ということを予め告知されています。

2021/05/22追記
私が滞在している地域ではコロナが落ち着き、4月下旬には100%稼働率に復帰しました。

2022/01/02追記
渡米後、特にコロナによる研究の制限は感じませんでした。
一時期、RPMIやCryovialが底をつきそうだったことぐらいでしょうか。
最近、オミクロン株が流行しているのでどうなるか分かりませんが。

 

安全性

日本の医療は患者側の視点に立つと、非常に恵まれています。

たとえば、風邪をひいたら予約なしでもすぐに受診出来たりします。

一方で、アメリカでは医療機関の受診が日本よりもハードルが高いことが予想されます。

また、皆保険ではないため、個々人で健康保険を選択しておく必要があります。

感染性の非常に高いウィルスの流行下では、その国の医療体制は非常に重要ですし、住み慣れた国ではないという不安感もあると思います。

 

育児の負担増

アメリカは州によって対応がだいぶ違うようですが、学校が完全にリモートになっているところもあります。

その場合、子供はずっと家で過ごすことになり、親の育児の負担が増える可能性があります。

また、子供を連れていく娯楽施設なども閉鎖されている場合、さらに、育児が大変になってきます。

留学中の知り合いの方も、育児の負担が大きくなり、それを理由に帰国を早めた方が何人かいました。

私は妻と熟考を重ね、研究留学の 1 年目は一人で渡米することを決めました。

同じ臨床医として多忙な妻の献身的なサポートには日々感謝しています。

 

コロナ禍でも研究留学を決意した理由

ここではもう少し、個人の意見を述べたいと思います。

まず、繰り返しになりますがコロナ禍でも「海外ラボの打診」や「留学の準備」を行うことは出来ます。

 

では、この状況下で皆さんに「研究留学の準備を積極的にオススメするか」というと、私は必ずしも万人には推奨できないと思います。

 

まず、その1つの理由として、研究留学のために多大な労力と時間とお金を割くのに対して、コロナ禍の影響をモロに受けている現在では、期待できる成果が通常よりも低くなっている可能性があります。

 

言い換えると、私は「研究成果・人脈形成・様々な経験」を求めて研究留学するつもりです。

しかし、このコロナ禍によってそれらすべてが制限されるリスクがあり、その実例も見てきました。

 

では、なぜ私が渡米する決意をしたのか、ご参考までにその理由を連ねてみます。

しかし、ご存じのように、コロナ禍の状況は今なお世界各国で刻々と変化しています。

そのため、今後の状況次第では「延期もしくは中止も十分あり得る」と考えており、あくまで、暫定的な考えです。

 

憧れのラボへの内定

これが一番大きな要因かもしれませんが、私はコロナ禍が本格化する前に打診を開始し、偶然にも長年憧れだったラボの内定を頂きました。

そのため、「このチャンスを逃したくない」という気持ちがあります。

まあ、それも開始時期などについて、交渉次第かもしれませんが。

 

研究者としてのキャリア形成

私は6年制の医学部を卒業してから専門医をとるまで、臨床医としてのウェイトが非常に大きかったです。

また、仕方がないことですが、大学院に進んだものの医局の方針で呼吸器内科診療を日々続けていました。

そのため、気づいたら30歳を過ぎていましたが、研究者としてのキャリアはとても弱いと感じています。

そのため、私自身の置かれた条件を踏まえた上で、座学やレビュー論文の割合が増えたとしても、「1年でも早い研究留学」が最善の策だと結論付けました。

 

Discussion

本来、私は一人でも多くの方に「研究留学を実現して欲しい」と考えており、そのためにも色々な記事を書いてきました。

しかし、この状況下で「新たに留学することが本当に正解なのか」は誰にも分かりません。

 

そのため、今一度、自分(さらには配偶者)の将来の目標・キャリア形成・子供の教育・資産運用などについて冷静に吟味する必要があります。

また、「何が何でも留学する!」という固定観念にとらわれず、今後の状況次第では延期もしくは中止、国内留学への変更などを柔軟に検討する必要があると思います。

言うは易く行うは難しですが、数カ月先の状況が把握しにくいコロナ禍では、「臨機応変に対応する」ことがいつも以上に重要なのかもしれません。

最後に、このブログの情報のみを鵜呑みにせず、留学したい地域の状況が実際どうかを確認することが、最も大事なのは言うまでもありません。

 

私は数ヶ月後に予定通りアメリカに留学するつもりですが、そこで得た知見もまた適宜発信していきたいと思います。

以上、最後まで読んで頂きありがとうございました。