基礎研究

医師のキャリアに新たな選択肢を:医薬品開発能力促進機構(DDCP)とは


さて、更新がしばらく滞っていましたが、ようやく1年にわたる長くてツラい論文のリビジョン作業を終えて、レビュワーからの返信を待つ状態となりました。

こういった一息つけるタイミングでは、同じキャリアを歩む研究者の方々や、これから留学を考えている後輩たちと話す機会が自然と増えてきます。

そんな中で、最近よく話題に挙がるのが我々の永遠のテーマ、そう「この先のキャリアをどうするか」問題です。

私自身も以前の記事「キャリア選択に迷うあなたへ:次の一手を見つける3つの指針」で書いたように、日本で臨床に戻るのか、アメリカで研究を続けるのか、それとも製薬企業という新しいフィールドに挑戦するのか、現在進行形で悩んでいる一人です。

こうした迷いを抱える中で、私がここ2年ほど参加している団体があります。それが今回ご紹介する「医薬品開発能力促進機構」、通称DDCPです。

製薬業界について漠然としたイメージしか持っていなかった私ですが、この活動を通じて医薬品開発の実際や、自分のキャリアとの接点が少しずつ見えてきました。

最近、同じようなキャリアの悩みを持つ方々との会話でDDCPを紹介する機会が増えてきたこともあり、今回の記事では、その活動内容について詳しくご紹介します!

【この記事は、こんな方にオススメです】

  • 留学中でこの先のキャリアに悩んでいる医師の方
  • これから留学を考えている若手医師の方
  • 臨床以外のキャリアに興味があり、製薬業界について知りたい医師の方

DDCPとは

医薬品開発能力促進機構(The Institute of Drug Development Career Promotion; DDCP)は、2019年に設立された非営利の団体です。代表理事の芹生卓氏を中心に、「医薬品開発にもっと医師の視点を」を合言葉に活動されています。

誤解されやすいのですが、DDCPは製薬企業への転職斡旋を行う団体ではありません。むしろ、製薬業界に興味を持つ医師が、その世界を知り、必要なスキルを学び、自分なりのキャリアを考えるための「学びの場」を提供する組織です。年会費制で運営されており、会員になることで様々な勉強会やネットワーキングの機会にアクセスできます。

 

なぜ医薬品開発に医師の視点が必要なのか

DDCPのホームページによれば、医薬品開発は、かつての低分子化合物の時代から大きく変わっています。今や抗体医薬、遺伝子治療、細胞治療など、治療の選択肢は飛躍的に複雑化しています。

私自身、製薬業界については詳しくありませんでしたが、DDCPを通じて、こうした変化の中で実際に患者さんを診てきた医師の視点がいかに重要かを知りました。臨床試験の設計、安全性の評価、適応症の検討、どの段階においても、医学的な判断が求められる場面は増えているとのことです。DDCPは、こうした医師の視点を医薬品開発の現場で活かすサポートをしています。

DDCPの主要な活動:MDカフェ

DDCPの代表的な活動の一つが、月1回のペースで開催されている「MDカフェ」です。このオンラインセミナーシリーズでは、製薬企業や関連分野で活躍する医師や専門家をゲストに迎え、実践的なキャリア情報や知識を共有しています。

MDカフェで取り上げられる主なテーマ

これまでのMDカフェでは、以下のようなテーマを扱ってきました。

医薬品開発の実務メディカルプランの立て方、ファーマコビジランス業務、臨床開発における医師の役割
キャリア形成アカデミアから製薬企業への転身、40代でのキャリアチェンジ、製薬企業での「壁」と「気づき」
マネジメント実践的リーダーシップスキル、グローバル製薬企業での成功の秘訣
多様なキャリアパスAMED、医学部発ベンチャー、国際機関でのキャリアなど

MDカフェは基本的に日本時間の土日の午前中(9:00-10:30が多い)に開催され、DDCP会員でなくても一回2,000円程度で参加可能です。

また、開催後の録画は会員限定特典として会員専用Slackを通じて共有されるため、会員は後からでも視聴することができます。これにより、臨床で忙しい医師や時差のある海外在住の研究者でも、自分のペースで学ぶことができます。

 

DDCP会員特典:メンタリングプログラム

DDCPのもう一つの大きな特徴が、会員向けのメンタリングプログラムです。会員は年に2回まで無料で、DDCP理事によるメンタリングを受けることができます。

理事の先生方は3名おり、それぞれ異なる専門性をお持ちです:

芹生理事グローバル企業でのリーダーシップ、組織運営、目標設定と成果評価
玉田理事製薬ミッドキャリアのお悩み相談、メディカルアフェアーズ、海外勤務・ベンチャー転職相談
中鉢理事アメリカでの入職サポート、開発職のキャリア全般、女性のリーダーシップ発揮

会員は自分の状況に応じて相談する相手を選ぶことができます。

 

私のメンタリング体験

私自身、昨年中鉢理事にメンタリングをお願いしました。当時の私は、アメリカでの研究を続けながらも「この先、もし製薬業界でキャリアを築くとしたら、日本とアメリカのどちらを選ぶべきか」という悩みを抱えていました。いろいろと教えて頂く中で、特に興味深かったのは、日米の製薬業界の構造的な違いについてでした。

アメリカでは、EBP(Emerging Biopharma:新興バイオ製薬企業)と呼ばれる中小規模の企業が、創薬研究や早期臨床試験を担っています。これらの企業が有望な薬剤候補を生み出し、大手製薬企業(Big Pharma)がそれを買収して後期開発を進めるという、明確な成功循環モデルが確立しています。

一方、日本ではこのEBPに相当する企業が少なく、大学発ベンチャーは増えつつあるものの、それをBig Pharmaが買収して大きな成功を収めるといった循環サイクルはまだ未成熟とのことでした。

こうした構造の違いを知ることで、漠然としていた製薬業界でのキャリアが、少し具体的に見えてきました。書籍だけでは分からない現場の視点を学べたことは、とても貴重な経験でした。

「製薬企業の言語」を学ぶ

アカデミアにいると、製薬企業での仕事は想像しにくいものです。私自身も最初は「創薬開発」という漠然としたイメージしか持っていませんでした。しかし、MDカフェを通じて、メディカルアフェアーズ、ファーマコビジランス、臨床開発など、具体的な部門や役割について学ぶことができました。

また、製薬企業とアカデミアでは使用する「言語」が少し異なることも実感しました。研究者が「メカニズム」「仮説検証」について語るのに対し、製薬企業では「適応」「エンドポイント」「安全性プロファイル」といった、薬を患者さんに届けるための視点が重要になるように感じました。MDカフェで製薬企業の医師の方々の話を聞くうちに、この違いを少しずつ感じ取れるようになったと思います。

 

実際の声に触れる価値

最も大きな収穫は、実際に製薬企業で働く医師と対話できることです。日本ではまだ製薬企業で働く医師の数は限られており、身近にロールモデルを見つけることは簡単ではありません。

MDカフェメンタリングを通じて、製薬企業で働く医師が具体的にどのような仕事をして、どのようなやりがいを感じているのかを知ることができました。ある方は「多くの患者さんに届く薬の開発に関われる」ことに喜びを感じ、別の方は「グローバルチームをリードする」ことに充実感を得ているといいます。

こうした生の声に触れることで、製薬企業というキャリアが自分に合うかどうか、より現実的に考えられるようになると思います。

 

無料Youtube

DDCPでは会員限定のコンテンツに加えて、一般公開されているYoutubeチャンネルも運営されています。

このチャンネルでは、製薬企業への転職ノウハウ、実践型インターンシップ情報、業界エキスパートによる対談、リーダーシップやマネジメント講座など、アカデミアから企業へ移る医師に必要な知識を5〜10分程度の動画で提供しています。

動画を視聴してみると、理事の先生方の「医師のキャリアをサポートしたい」という温かい思いが感じられると思います。製薬業界に少しでも興味がある方は、まずこの無料チャンネルから覗いてみるのも良いかもしれません。

おわりに

私自身、現在も「この先どのキャリアを選ぶべきか」という問いに対する最終的な答えは出ていません。論文のリビジョンが一段落し、そろそろ具体的な次のキャリアの就職活動を始める時期が近づいています。

DDCPでの経験を通じて、製薬企業という選択肢が自分に合うかどうか、少しずつ見えてくるように思います。

大切なのは、様々な可能性を知り、自分らしいキャリアを探していくこと、なのかもしれません。DDCPは、そのための貴重な学びの場になってくれるはずです。

 

この記事が、キャリアの岐路に立つ誰かの役に立ってくれれば幸いです。

それでは、次の記事でまた会いましょう!


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