レビュー記事

【読書レビュー】切磋琢磨するアメリカの科学者たち

Book Review: The American Academic Journey

読書レビューの第2弾です。

第1弾の「理系のための人生設計ガイド」が予想以上にアクセスがあったので、しばらく読書レビューを続けていこうと思います。

 

今回、ご紹介する本は「切磋琢磨するアメリカの科学者たち」。

この本は、平たく言うと「アメリカでサイエンスが加速していく仕組み」について、筆者の実体験をもとに書かれています。

 

研究留学を控えた私にとっては非常に参考になった本でした。

ただ、万人にオススメ出来るわけではなく、以下のような人達にきっと役立つと思います。

・研究留学を志す人(留学が確定してからでいいかも?)

・研究留学中の人

 

内容

前述のとおり、この本では「アメリカでサイエンスが加速していく仕組み」=「アメリカの科学者たちが切磋琢磨する背景」について書かれています。

その「仕組み」とは、主に以下の3つのシステムで構成されています。

  1. 大学教育
  2. ポジションの獲得
  3. 助成金

著者自身が、アメリカでPhDを取得され、その後、終身雇用を目的とした教員(テニュアトラック)、NIHの助成金申請・審査などを経験されているため、これらのシステムが非常に具体的かつ丁寧に解説されています。

そして、アメリカではこれら3つのシステムが密接に関わりあって、サイエンスが加速しているのだと良く理解できました。

 

個人的に興味深かったこと

次に、この本で興味深かったことを幾つか紹介していきます。

大学院関連

覚えている範囲で羅列します。

・アメリカの大学院生は給料がもらえる。

・アメリカでPhDを取得する理由:いい就職先を見つける+将来的に高い給料をもらうため。

・日本とアメリカでPhDが社会的に与える印象が違う。

・MD+PhDの与える印象も違うよう。

・優秀な学生を確保するために大学側がやっている工夫。

・研究から得られた知的財産はすべて大学に帰属!そういえば、私も留学準備でそんな文言の契約書にサインしたけど、深く読んでいませんでした笑

・大学が若手研究者にスタートアップ資金を与えるのは、投資の意味合いが強い。つまり、研究者に助成金を獲得してもらい、その間接経費でより多くの資金が大学に入ることを期待している。なので、大学に所属する研究者は、助成金を獲得することが超重要。

研究者関連

自分のボスがどういったプロセスや審査を経て、いまのポジション(Professor)を獲得したのかよく分かりました。

そして、尊敬の念がさらに強まりました笑

その他、覚えている範囲で非常に興味深かったこと。

・役職の違い(日本と全く違う)。ラボメンバーのそれぞれの立場の違いも少し分かりました。

・PIの観点からいうと、Assistant Professor, Associate Professor, Professorの立場は並列。

・休暇中の給料は助成金から捻出する(場合がある)。

助成金システム

日本との違いにびっくりです。

NIHのR01を例にすると、研究計画書だけで実に、25ページ書かなければいけないようです。

 

個人的に、アメリカのNIH grantで「いいな」と思ったこと。

・年に数回申請するチャンスがある。

・申請書の批評(フィードバック)が具体的で、そこから大いに学べる。

・業績だけでは評価されない。

・非固定メンバーも審査に加わる。

 

最後に

この本を通して、アメリカの研究者をとりまく環境が日本とは全く違うことが、具体的に分かって良かったです。

これから自分を取り巻く環境がどういったシステムで評価されどういったプロセスで独立した研究者になっていくのか、そして、その背景を学ぶことが出来ました。

 

実は、私は本を読み終えたときは、いつも、学んだことをiOSアプリのGoodNotesにまとめています。

しかし、この本はあまりに「学び」が多く、まとめるのが大変だったので、その作業を止めました(笑)

そして、この本を「期間があいたらまた読むべき本リスト」の中に加えておきました(笑)

 

以上、興味が湧いた方は読んでみて下さい。

では、また乞うご期待!

切磋琢磨するアメリカの科学者たち―米国アカデミアと競争的資金の申請・審査の全貌, 菅裕明, 共立出版.