基礎研究

キャリア選択に迷うあなたへ:次の一手を見つける3つの指針


さて、前回はモチベーションを維持する方法について書かせていただきましたが、今回は講演会での質疑応答で最も多かったもう一つの質問、「キャリア選択の方法」について私なりの考えを共有したいと思います。

実際、今年お会いした色んな方々との話し合いを振り返ると、大学生から院生、ポスドク、臨床医まで、実に多くの方が自分のキャリアについて悩んでいました。そして、その問いに明確な答えを持っている人は、ほとんどいませんでした。

私自身、現在進行形でキャリアを模索している一人です。次の一手として、日本で臨床に戻るのか、アメリカで研究者として続けていくのか、それとも製薬企業で新しいチャレンジをするのか。これは私にとっても大きな悩みです。

ただ、これまでの経験を振り返る中で「どのようにしてキャリアの選択肢をみつけ、より納得のいく決断をするのか」という疑問に対して、ある程度の指針がみえてきたように思います。

キャリア選びに絶対的な正解はありません。しかし、より良い選択のために、私が実践している3つのステップをここでは紹介したいと思います。

第一ステップ:柔軟な人生のミッションを描く

人生のミッションは、具体的な役職や地位ではなく、より本質的な目標であるべきだと考えています。例えば私の場合、「がん患者さんのQOLを向上させる」というミッションを掲げています。これは、主治医として百人以上のがん患者さんと向き合ってきた経験から生まれた、私なりの使命です。

ミッションは必ずしも社会貢献である必要はありません。「経済的な豊かさを実現する」「理想の家庭を築く」といった個人的な目標でも構いません。重要なのは、特定の職位や組織に縛られない、柔軟性のある目標を設定することです

人生には予期せぬ出来事が付きものです。そんな時、複数の選択肢を持っていることが、むしろ目標達成への近道となるように思います。

第二ステップ:実践を通じた自己理解

ミッションが定まったら、様々な挑戦を通じて自己理解を深めていきます。私の場合、臨床医としての診療、医局に所属、大学院に進学、専門医資格の取得、海外留学、異業種の方々との交流、ボランティア活動など、できる限り色んな経験を積むように心がけてきました。

こうした挑戦は、時に大きな不安やストレスを伴います。失敗や挫折も避けられません。しかし、comfort zoneを抜け出し、情熱を持って取り組むからこそ、自分の強み、価値観、そして限界を客観的に理解することができます

第三ステップ:選択肢の探索と決断

自己理解が進んだら、ミッション達成に向けた具体的な選択肢を検討します。私の場合、「がん患者さんのQOLを向上させる」というミッションに対して、以下のような選択肢が浮かび上がってきました:

  • 臨床医として現場に戻り、直接患者さんのケアに携わる。
  • 基礎研究者としてPIのポジションを目指し、新しい治療法の開発に取り組む。
  • 製薬企業で創薬開発に関わり、より多くの患者さんに届く治療薬の開発に携わる。

さらに、これらの選択肢には「日本」か「アメリカ」という地理的な選択肢も加わりました。例えば、アメリカでは最先端の研究設備や豊富な研究資金にアクセスできる一方、日本では長年築いてきた医療ネットワークを活かせるという特徴があります。

このような具体的な選択肢を前に、私が特に重視したのは色んな人達との対話でした。例えば、研究者の方々との交流を通じて、私自身は必ずしも「基礎研究」にこだわっていないことに気付きました。これは、様々な方との対話がなければ得られなかった重要な気付きです。

また、この過程では良きメンターの存在も大きな助けとなります。客観的な視点からのアドバイスは、時に自分では気付かなかった自身の強みなどを気づかせてくれます。

絶対にみて欲しいYoutube動画

前回の「モチベーションの維持」というテーマに続いて、今回は「キャリア選択」について、私なりの考えをざっと紹介してきました。これらの記事を書きながら、私はちょうどアニメの「宇宙兄弟」をみていたのですが、ふと、以前にみたYoutube動画のことを思い出しました。

それは小説「下町ロケット」のモデルになった植松努さんが登壇されたTed Talkの動画です。ここでは、宇宙開発を手掛ける植松さんがどのようにして、ご自身の夢を実現されたかが、温かく、そして力強い言葉で語られています。「どうせ無理」という言葉を「だからこそやる」に変えていった植松さんの人生の軌跡は、キャリアの岐路に立つ私たちに、大きな勇気を与えてくれるはずです。

この動画の中で、私の心に残った言葉や場面があったので、いくつか紹介します:

  • 宇宙開発は夢そのものではなく、手段に過ぎない。
  • 本の中でライト兄弟に出会った。
  • 飛行機に乗ったら「墜落してくれ」と祈るぐらい辛い経験をされた。
  • 児童養護施設でのボランティア経験からの学び。
  • 人は自身がないと生きていけない。自信をなくしてしまった可哀そうな人は豪華なものに身を包んだり、他人の自信を奪うようになる。

これらは動画の魅力のほんの一部に過ぎません。実際に視聴すると、きっと皆さんそれぞれの心に響く言葉が見つかるはずです。この20分ほどの動画は、キャリアに悩むすべての人に観ていただきたい内容です。

ちなみに、アニメ「宇宙兄弟」のレビューも「雑記帳」の方で書いているので、ご興味のある方はぜひ一読してみてください。

おわりに

さて、今回の記事は以上となります。

私自身、この記事を書いている現時点でも最終的な決断には至っていません。日本に帰国して製薬企業での創薬開発に携わることに魅力を感じる一方で、その考えも週によって揺れ動くのが正直なところです。そして、こうした迷いは自然なプロセスだとも捉えています。

現在は、私の論文がアクセプトされるのを一つの区切りとして、最終的な判断をしようと考えています。

本来、私はアメリカでPIになるために渡米しました。ここからも分かる通り、キャリアは必ずしも一直線に進むものではありません。それでも、明確なミッションを持ち、様々な経験を積み重ね、多様な選択肢を検討していく―このプロセスそのものが、自分らしいキャリアを築いていく上での重要な道標となるのではないでしょうか。

最後に、この記事を読んでくださった皆さんが、それぞれの状況の中で納得のいく選択をされ、充実したキャリアを歩まれることを願っています!

それでは、次の記事でまた会いましょう!