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導入
~ラボのある日~
というわけで、実験結果が全て揃ったタイミングで、illustratorを使った論文のfigure(図)を作ることになりました。
今回、新たにIllustratorについて学んだところ、研究者向けの説明が非常に少ないことが分かりました。
そこで、今回は「研究者向けの Illustrator の使い方」についてご紹介していきます!
方法
今回、色んなジャーナルの投稿ガイドラインを読んだところ、CNS※やその姉妹紙などのトップジャーナルでは、illustrator を使った figure 作成を強く勧めていることが分かりました。
※Cell, Nature, Scienceの頭文字をとって、そのように表現します。
ここでは私がどのように illustrator を学んだか、研究者が知っておくべき使い方を共有したいと思います。
ちなみに、このサイトで使用している画像の多くは私が illustrator で作成したものです。
Powerpoint と比較すると、illustrator は非常に細かい設定が可能で、とても奥が深いように思います。
しかし、デザイナーを目指しているわけではなく、研究者が知るべき機能は限られています。
最初に「どの result をどの figure に入れるか」を検討する際は、恐らく大量の数の result になると思います。
なので、Powerpoint を使った方が、同一ファイル内で figure 間を行き来できるので楽だと思います。
そのため、まずは通常通り、Powerpoint で大まかな figure の構成を練り、「どの result をどの figure に入れるか」を決定した後に illustrator で仕上げるのがベストだと思います。
少し分かりにくい表現で申し訳ありません。
まず、はじめに
Illustrator を使うメリット
- ファイル形式を指定できる。 ex. Tiff, jpgなど
- figure の解像度を指定できる。
- スクリーンディスプレイ用の RGB カラーと印刷用の CMYK カラーのどちらかを選べる。ちなみに、パワポは RGB のみ。
- 他のコンピュータにファイルを移動したときにフォントが勝手に置き換わる心配がない。
- 張り付けた prism ソフトの graph や excel で作った table などを、illustrator 内で フォントの変更/調整が可能。つまり、同一 figure 内の graph 間のフォントを統一することが可能。
- Powerpoint では作成が難しい綺麗な image figure をベクター画像として作成できる。
- image figure を作れると、論文を作成する時だけでなく、助成金の申請の時にも使えて便利。
Illustrator を使うデメリット
- 使用には月々お金が発生する。
- 設定項目が多く、最初に使い慣れるのに時間がかかる。
Illustrator のインストール
私の知る限り、現在は永久ライセンスはなく、月々1000~2000円前後の費用がかかります。
学生や教職員は安く購入出来るので、そちらのライセンスを取得しましょう。
ちなみに、Prime Student に登録している場合、会計の時にさらに5%割引されるようです。
詳細は Amazonの 学割 PCソフト ストア をご確認ください。
Illustratorの基本的な使い方
こちらに関しては、書籍を購入して読むのが一番早いです。
「結局本を買わせるんかい」と思うかもしませんが、figure を作成する上で、本だけでは分からない内容をこの後に続く項目で説明していきます。
私が解説本をいくつか購入して読んでみた感想として、最初は可能な限りやさしい本を買った方がいいと思います。
初心者用のものを買ったつもりでも、1冊は難しすぎて理解が完全に追い付きませんでした。
私のオススメは以下の2冊です。
- Illustrator のやさしい使い方から論文・学会発表まで, 門川俊明, 羊土社
- これからはじめる Illustrator の本, ロクナナワークショップ, 技術評論社
とても分かりやすく、研究者がよく使うであろうマウスや細胞、DNAなどのイラストで使い方を練習していきます。
しかし、この本は既に絶版されており紙媒体のものを買おうとすると高額になるかもしれません。
また、過去のバージョンで解説しているので操作画面が現在と少し違います。
ちなみに、今回の執筆にあたって調べてみたところ、私の時にはなかった研究者用のイラレ解説本がもう1冊発売されていました。
- 論文・学会発表に役立つ! 研究者のためのIllustrator素材集: 素材アレンジで描画とデザインをマスターしよう! , 田中 佐代子, 化学同人
この本は読んでいないので詳細は分かりませんが、気になる方はレビューをご確認下さい。
カラム毎のテンプレートを作っておく
では、ここから Illustrator を使った Figure 作成の具体的な方法をみていきましょう。
まず、事前情報として論文の Figure には大きく分けて3種類の大きさがあります。
具体的には、「1, 1.5, 2」カラムがあり、そのサイズはジャーナル間であまり変わりません。

※Reference: 左から順に
Krijn K. Dijkstra et al. Cell Reports 2020
Adam S. Crystal et al.Science 2014
Luping Lin et al. Nature Genetics 2015
そのため、各カラムのサイズに合わせたアートボード(パワポで言うところのレイアウト)を設定し、まずはテンプレートを3種類作っておきましょう。
1.5カラムを採用していないジャーナルもあるので、その点だけ注意して下さい。
以下、Cancer Cellの一例です。
1 column: 85 mm
1.5 column: 114 mm
2 column: 174 mm
※コラムの長さの指定は横幅のみです。縦幅は graph を挿入後、なるべく短くなるように後から設定します。

このようにカラム毎にテンプレを作っておくと、その後の Figure 作成が楽になります。
Graph(result)をillustrator内のアートボードに張り付ける
※ここからは独学なので、他にも良い方法があるかもしれません。
Excel データは単純に Copy and Paste で貼り付け可能なので、graph の貼り付けに関しては prismを例に紹介したいと思います。
Prism の例


prism 画面で出力を押し、WMF 形式で出力します。
※もし WMF 形式で上手く行かない場合は色々な形式を試してみて下さい。

WMF 形式のファイルを illustrator に Drag and Drop します。
そうすると新しいタブが作成され、そこに graph が挿入されます。
これを Copy して、Figure のアートボートに張り付けます。

この時、大抵大き過ぎるので Shift Key を押しながら(縦横比を維持)、小さくして理想の箇所に graph を置きます。
ちなみに、各 graph の Font は Arial, Size は6-12pt, 線幅は1ptぐらいに揃えるのが理想です。
「Figure 作成時の注意点やルール」は他の記事で紹介しています。

アートボードの調整
Figure 内に graph を挿入したら次に、アートボートの縦幅を調整します。

「ドキュメント設定」を押します。

次に、「アートボードを編集」を押します。

縦の余白が少なくなるように設定します。

この要領で、すべての figure を完成させていきます(完成図)。
※2019/11/17 追記
初期設定では「ドキュメント設定」が右上に表示されていないようです。以下の方法で、表示されますでのお困りの方は参考にして下さい。

画面の右上にある「初期設定」をクリック。

色々な選択肢がある中で「初期設定(クラシック)」を選ぶと表示されるようになります。
※2020/10/25 追記
今まで気づかなかったですが、サイドバーの「アートボードツール」をクリックしても同じ事が簡単に出来ます。
Figureの出力
「File」→「書き出し」→「書き出し形式」の順に押していきます。

次に「ファイルの種類」をジャーナル指定のものに設定します。

「カラーモード」もジャーナルの指定のものにするのを忘れないようにしましょう。
解像度の設定も行い「OK」を押せば完成です。
TIPS
最後に知っておくと便利な機能をいくつかご紹介します。
この項目に関しては後から思いついたものがあったら、適宜追加していきます。
おすすめのショートカットキー
Ctrl + S などの一般的なものは省略し、illustrator 内でのみ使えるショートカットキーをご紹介します。
- V:一番よく使う「選択ツール」
- A:「ダイレクト選択ツール」
- T:文字入力
- Ctrl+Alt+space+クリック:縮小
- Ctrl+space+クリック:拡大
- Space:手のひらツール
- Ctrl + f : copy (Ctrl+c) を真上に貼り付け
- Ctrl + v : copy を画面中央に貼り付け
- Ctrl + d : 直前の作業の繰り返し(OfficeでいうところのF4)
理想の位置に表示画面を持ってくる方法
私は上記のショートカットで縮小 or 拡大を行いつつ、途中でCtrl(±Alt)を離して、space のみ押し続けて画面を見やすい位置に持ってくる手法をよく使っています。
1つのファイルで複数のfigureを編集する方法
※2020/10/25 追記
実は、1つのファイルで1つの figure だけ作れるわけではなく、1つのファイルで複数の figure をいっぺんに編集することも可能です。
以下がその方法です。
アートボードを編集する画面に切り替えると、右のサイドバーがこんな感じになります。

この状態で矢印の「+」を押すと、新しいアートボードが登場します。

次に、新しいアートボードを選択した状態で「+」の下にある「アートボードのプリセットを登録」を選択します。
ここを選択することで、追加したアートボードの大きさを理想のサイズに(正確に)変更することが出来ます。
このように、1つのファイル内のアートボードを単純に増やすことで、複数の figure を同じ画面で編集することが可能です。
テキストをオブジェクトに変換する方法
入力した文字, 線, 矢印を好きにカスタマイズするにはテキストをオブジェクトに変換する必要があります。
方法は簡単で「オブジェクト」→「パス」→「パスのアウトライン」と選択していくと出来ます。
こうすることで、テキストの外枠だけ色を変えたりすることが可能です。
また、変換した際に複数のオブジェクトが出来てしまった場合、「パスファインダー」→ 合体マークをクリックして1つのオブジェクトにすることが出来ます。
※文字のアウトライン化は、右クリック →「アウトラインを作成(shift+ctrl+O)」でも可能です。
オブジェクトを線で分割する方法

引いた線を図形(オブジェクト)に乗せただけでは「パスファインダー」→ 分割を押しても図形は分割されません。
それには予め、線をオブジェクトに変更しておくことが必要です。
線をオブジェクトに変更する方法は上と同じで、「オブジェクト」→「パス」→「パスのアウトライン」で可能です。
このように、線をオブジェクト化(パスのアウトライン)することで、はじめて図形を分割出来るようになります。
マウスを使った方がいい
イラストレーターの使い方を教えていた時に気づきましたが、イラストレーターを扱う時はタッチパッドではなく、マウスを使った方が圧倒的に作業効率がいいです。
線を引いたり、オブジェクトを移動させたりする時など、マウスの方がより正確に作業できます。
ちなみに、おすすめのマウスは、こちらの記事をご参照下さい。

クリッピングマスクの作成(画像の切り抜き)
※2020/10/25 追記
この機能は論文の figure を作る時には使わないかもしれませんが、おまけとして加えておきます。
例えば、以下の画像で右の人物の顔だけを左の円で切り抜きたいと仮定します。

まず、それぞれを切り抜きたいように重ねます。

次に、重ねた状態でそれぞれを選択して、右クリックを押します。

そこで、「クリッピングマスクを作成」を押すと、顔だけが綺麗に切り取られます。

注意点として、2つの画像を重ねる時は円を上にしておく必要があります。

ちなみに、切り抜きを行った後でも中の画像をダブルクリックすることで、位置を微調整できます。
手書きのイラストを illustrator で編集する
アップルペンシルを使ってイラストが描ける「Illustrator iPad 版」についても記事を書いたので、興味がある方は読んでみて下さい。

最後に
以上が、「研究者のためのイラストレーターを使った論文figure作成術」のすべてになります。
Figure を作る時にご活用頂ければ幸いです。
以上、最後まで読んで頂きありがとうございました。