雑記帳

父親が肺がん末期と診断されたときのこと。

A Physician's Perspective: When My Father Became My Patient

今回は、これまでの医者人生の中でも思い出深かった1つのエピソードをご紹介したいと思います。

それは、タイトル通り「私の父親が肺がん末期と診断されたとき」のことです。

結論から言ってしまうと、父親はただの非定型肺炎でクラビットを処方してすぐに治ったのですが、この経験を通して、自分なりに「医者」というものを改めて考えさせられたので、共有したいと思います。

 

ストーリー

まず、今回のエピソードは私が医者4年目、後期レジデントの時のことでした。

ある日、母親からの電話で父親が入院し肺がん、しかも直腸に遠隔転移を伴った stage 4であることを告げられました。

しかし、父親が入院していた病院の主治医(恐らく、60代)から病状説明を受けたところ、診断は CT のみで判断され、まだ疑い病名であることが分かりました。

そして、その肝心の CT をみせてもったところ、恐らく細菌性肺炎であり、直腸には何も異常がないことが当時レジデントの私でも、予想がつきました。

というか、CTレポートにもそう書いてありました。

さらには、ご存じの通り、肺がんの腸管転移はそんなに多くないです。

 

父親はこの時点で、肺がん終末期として何故かステロイドを使用されており、診断確定のために下部消化管内視鏡検査が予定されていました。

「これはやばいな」と考え、私が当時勤めていた病院の呼吸器内科部長に相談したところ、献身的な助言をもらい、即座に父親を転院させて自分が主治医になりました

そして、入院した日からクラビット 500 mgを1日1回飲ませたところ、自覚症状・レントゲン所見も改善し、5日で退院しました・と・さ。

めでたし、めでたし。

 

一応、追記しておくと、前医でも感染症を鑑別にゾシンを使っていましたが、全く効き目がありませんでした。

以上の経過に加えて、父親の主訴がそもそも下痢であり、非定型肺炎による随伴症状が考えられたので、転院してからはクラビットを使いました。

 

考察

まず、最初に断っておきたい点として、前医の主治医を責めるつもりはありません。

後医は名医とよく言いますし、病状説明の日程を私の勤務後、夜遅くに設定して頂くなど、とても誠実に対応されていたと思います。

しかし、実際に起こった診療内容をみると、やはり改善の余地はあったと思います。

 

ここでは、今回のエピソードを通して私が経験したこと考えたことを客観的に考察していきたいと思います。

また、そうすることで、将来の自分への戒めにするつもりです。

 

経験したこと

1. 癌の告知を受けた家族のストレスを体験した。

この経験はその後、数多くの肺がん患者さんを診療していく上で、役に立ったと思います。

ちなみに、母親は不安で5日間眠れなかったそうです。

2. 自分の親を主治医として診たことで、診療への度胸がついた。

よく言われる、「患者さんを自分の親のように診療する」ことがどんな感じか、身を持って体験しました。

3. 主治医の判断のみが、治療に反映されうることを再認識した。

私が医師でなければ、親の病状は悪化していた可能性がありました。

このことから、患者さんや家族が医療従事者でなければ、主治医の影響力が非常に大きいことを改めて実感しました。

 

考えたこと

ここは今回のエピソードだけではなく、その後の診療経験もふまえて書きました。

1. 医者はある一定期間に一度、自分を客観的に見直す必要がある。

そのためには、以下が大事ではないでしょうか。

  • 時折、自分の診療スタイルがおかしくないか疑う。
  • 自らに奢る(おごる)ことなく、他人の意見を積極的に求める。医者学年なんかにこだわらない。
  • 意見をもらった時は大切にし、普段から助言をもらいやすい環境にしておく。

2. 振り返ることなく、診療を続けていると自負やプライドだけが強くなっていく。

自分を見直さなければ、だんだん修正が効かなくなるように思います。

3. 患者さんを同時にたくさん担当できても、無自覚のうちに、クオリティーが伴っていない可能性がある。

非常に難しいですが、これを避けるには、自分のキャパシティーを冷静に把握しなければなりません。

そして、それは年齢やその他の環境因子と共に変化していくように思います。

医者は無自覚のうちに、本来、助けられる患者さんも助けられなくなるリスクがあるかもしれません。

 

最後に

ざっと、こんな感じのことを私は考えました。

まあ、言うは易く行うは難しなのは当然です。

残念ながら、現状の医療体制では、自分のキャパを遥かに越えて診療することが、非常に多いことも十分に理解しています。

 

恐らく、今回、考察したことも当時将来で「変わっていくだろうな」と予想します。

今後も色んな経験をとおして、「理想の医師像」というものを悩み、考えていきたいと思います。

 

さて、今回はこれで以上です。

最後まで読んで頂きありがとうございました!