基礎研究

アメリカでフェローシップを得ることの実際の恩恵:金銭的な助成を超えて

Practical Benefits of Securing a Fellowship in the US: Beyond Financial Support

皆さんお久しぶりです。

すっかり記事を書くことをサボっていたわけですが、Cork31逃亡説が流れ始めたこのタイミングを見計らって、生存報告も兼ねてブログを更新したいと思います。

さて、今回のテーマですが、ここ数ヶ月で尋ねられることが多くなったアメリカのフェローシップ関連にしましょう。

フェローシップの探し方、申請書の書き方は前回の記事の通りです。なので、今回は読者さんから追加で頂いたご質問を元に記事を書いていきます。

「フェローシップの獲得」というと、単純にお金をもらうんでしょ?と思いがちですよね。でも、実はそれ以上の恩恵がたくさんあるんです。

今回はそんなところに焦点を当てて、私自身が体験してきたことを共有致します。

この記事はアメリカのフェローシップに応募しようか迷っている方、アメリカでPIを目指したい方が特に参考になると思います。

また、最後にいつものお断りですが、一重にアメリカのフェローシップと言ってもたくさんの種類があり、そこから得られる恩恵は千差万別です。

なので、今回はあくまで私の一例であることについて、ご了承下さい。

 

Retreatでの経験

Retreatとは、フェローシップの受賞者同士を集めた合宿のようなものです。

私は2022年9月にアメリカのド田舎で4日間の研修をして参りました。

そして、そこで数多くの得難い体験をしています。

1. アカデミアと製薬企業のPrinciple Investigatorを招聘したレクチャー

各方面、ジュニアからシニアまでのPI(全員、同じフェローシップの元受賞者)をお招きして、アメリカでPIになるための講義が行われました。

また、講義の後にはパネルディスカッションがあり、PIを目指すにあたって気になることを何でも質問することが出来ました。

そして、流石のアメリカ、質疑応答は止むことがありません。

 

2. 受賞者(フェロー)同士のコミュニケーション

先ほど、ド田舎で合宿があったと言いましたが、それは簡単に言うと、ホテルからフェローを逃がさないためです。

結果、私達は丸々4日間ホテルに監禁され、講義を聞くとき、食事をするとき、休憩時間など、常に初対面の方と会ってコミュニケーションをとることが強制されました。

最初は辛かったですが、この短期間で世界各国からアメリカにきた熱意あるポスドク達と日常生活やら科学やらの話ができたことは正しく、Pricelessでした。

 

他には、主催者や自分の申請書を採点した方々(研究者)とも話す機会がありました。

採点者と話した際には、彼らが私の研究計画書やエッセイ内容を覚えていたことに驚いた記憶があります。

 

3. ポスター発表

フェロー1年目はこれからの研究内容をポスターで発表しました。

夜の9時からセッションが始まり、制限時間は1時間でしたが、無事に2時間で終わりました。

 

4. Award受賞者の発表

数々のレクチャーやフェロー達のプレゼンの合間に、一人の女性が壇上にあがってきました。

そしてあろうことか、突然、二十歳の自分の息子の自慢話を始めるではありませんか。

「えっ、何事?」と思いつつ3分ぐらい経過すると、その男の子が実は「血液がん」を患わっていることが明かされます。

話は次第にその治療内容や起きた合併症に移り、実は彼が数年前に亡くなっていることが知らされます。

そして、話の最後にその男の子の言葉が紹介されました。

母さん、僕は知らなかったよ。がんってこんなに辛いんだね。こんな辛い経験は僕一人で十分だよ。これは僕からの最後のお願いなんだけど、僕が死んだら僕の貯金を全部、がんの研究に寄付してくれないか。

この話のあとに、その男の子の名前が付けられたAwardの受賞者が発表され、その受賞者が壇上に上がると亡くなった男の子の母親から感謝の言葉と共に1万ドルの小切手が直接、手渡されました。

そうです。このAwardは亡くなった男の子の遺志を継いで誕生したもので、フェローのうち、特に小児腫瘍の研究で成果を挙げた一名に毎年贈られているようでした。

懸命にがんと戦った男の子の尊い意志や母の子への強い愛情。その光景のインパクトは今でも忘れません。

このような場面を目の当たりにしたら、ほとんどの人が研究意欲を掻き立てられるのではないでしょうか。

 

恥ずかしながら、私はその場で思わず泣き、これを書きながらまた泣いています。

 

2023/05/21追記
この授賞式の風景がYoutubeにアップされ、一般公開されていることに気が付きました。興味があって観たい方はお尋ねください。幸い、私は後ろの方に座っていたので恥ずかしい姿が世界に公開されることはありませんでした笑

改めて、授賞式の様子を動画でみたところ、母親が男の子の日記に書かれていた印象深い文章を読み上げる場面がありました。

Though I might die tonight, I must plan on fighting for tomorrow.

Fear is real and right but must be confronted and sometimes conquered if it gets in the way of living.

I must embrace my fear, for it is here for a reason, but I must not let it stop me.

It will make me stronger.

I will love life better.

I have the chance to fight nobly.

I will go to sleep and wake up tomorrow knowing that a battle has been won and there was a full day ahead of me for celebration.

 

5. 宣伝用のビデオ撮影

寄付者を募るための宣伝用のビデオ撮影が合宿中に行われました。

撮影は本格的なスタジオで行われ、自分のプロジェクトの内容やこれまでの診療経験、なぜ研究にシフトしたかなどについて質問されました。

しかし、ここで非常に悔しかったのですが、私は頂いた質問を英語で十分に答えることが出来ず、しばらく言葉に詰まっていると、主催者側が「日本語でもいいよ」と言ってくれました。

なので、途中から日本語で質問に答えていましたが、その光景はシュール、かつ、自分の実力不足が明らかであり惨めでした。

この経験から、帰ったら英語の勉強を必ず再開しようと心に誓いました。

 

6. 参加費について

Retreatに参加するための移動費(飛行機・バス・ウーバー)・ホテル代・食事代・ポスター準備費などは、すべて主催者側が負担してくれました。

ちなみに、私は昨年AACRにも参加しましたが、その際にもボスが食事代含めて全額払ってくれ、アメリカのこの文化には衝撃を受けました。

 

寄付者との交流会

私のフェローシップの面白い特徴として、自分を金銭的にサポートしてくれる寄付者が一人一人指定されます。

つまり、「どこの」「誰が」自分にお金をくれているかが分かり、その方とお会いする交流会が年1回ペースで開催されます。

この会は30人ぐらいの小規模で行われ、寄付者は球団の元オーナーであったり、製薬会社のCEOだったり多方面に渡ります。

ゲストには最近のノーベル賞受賞者が呼ばれ、支援者に対する感謝の言葉や科学に寄付していくことの重要性について話してくれました。

このアメリカの寄付文化は紛れもなく、アメリカのサイエンスを力強く後押ししている大きな要因だと、肌で感じることが出来ました。

 

まとめ

以上がフェローシップを獲得してから半年弱で経験した内容です。

これ以外にも、支援者候補との交流会があったり、「研究について若い世代に向けてプレゼンしてくれないか」「マラソンの応援に行ってくれないか」などの打診も個別にありました。

このように、アメリカのフェローシップを獲得することは単純にお金を貰うこと以外に、受賞者同士のコミュニティに参加することでき、これはアメリカで研究を続けていく上でメリットが大きいように思います。

 

以上、興味が湧いた方は是非とも挑戦してみて下さい。

そして、他に何かご質問があれば遠慮なくどうぞ。