基礎研究

【最新版】研究論文の書き方:米国PIに学ぶ論文作成メソッド!


このたび、私が筆頭著者および責任著者を務める論文が、最初の投稿で査読に回ることになりました。もちろん、査読に回っただけでアクセプトにはまだ程遠いですが、ここまで進めたこと自体、私にとっては大きな一歩です。

今回の論文作成では、PI(Principal Investigator)からの指導のもと、数カ月にわたって、追加実験やストーリーの再構築に追われました。当初は「サイエンス力で勝負!」なんて考えていましたが、それがいかに浅はかな考えだったかを思い知らされました。良いデータを集めるだけでは論文は通らず、むしろストーリーの組み立て読者の立場に立った工夫がとても重要です。

以前、私は大学院生だった頃に、研究論文の基本的な書き方について記事を書きました。その時から数年が経ち、より実践的な論文作成のノウハウを学ぶことができました。

From Data to Publication: Essential Steps in Writing English Research Papers
科学論文執筆の基本:効果的な英語研究論文の書き方ガイドこの記事では、基礎研究論文の効果的な英語での書き方について、具体的な方法と重要なポイントを紹介します。Figure作成のコツから原稿の構成、参考文献の選び方まで、初めて論文を書く研究者や学生に役立つ実践的なアドバイスを提供します。...

この記事では、論文の投稿を目指す中で、PIから受けた指導の一部をご紹介したいと思います。この内容が、これから論文執筆に挑む皆さんにとって、少しでも参考になってくれれば嬉しいです!

※以前この記事では「トップジャーナル」というキーワードを使っていましたが、なんとなく気恥ずかしくなったので表現を変えました。権威性や集客力は落ちるかもしれませんが、それでもいいかなと考えています。(この注釈はそのうち消します)

ジャーナルの方向性を尊重する

各ジャーナルには独自の方向性と重点分野があります。それによって、原稿のストーリー展開が大きく変わってくるので、投稿前にそれらをきちんと把握しておきましょう。

具体的には、以下のような項目に焦点を当てている場合があります:

  • 得られたデータの新規性
  • 実験手法・モデルの革新性
  • 臨床応用へのインパクト
  • 研究分野全体へのインパクト
  • 実験結果の確実性と再現性
    など

また、目指すジャーナルによって、データの質がどれぐらい求められるのかも事前に調べておきましょう。特に、Nature系の論文ではウェスタンブロットのメンブレン写真が必要なのは、ご存じの方も多いと思いますが、Biological Replicates については見落とされがちかもしれません。すべての実験データで必要というわけではないですが、知っておいて損はないと思います。

Biological replicates are intended to reflect the biological variability and require processing samples from different sources. Experimental design should be taken into account to define biological replicates – for example, they may require animals from different litters. 

npg: nature publishing group, Reporting Life Sciences Research, 閲覧日2024年12月1日, URL:https://www.nature.com/documents/nr-reporting-life-sciences-research.pdf

投稿規定について

初回の投稿ではジャーナル独自の字数や引用数の制限を無視し、査読者にストーリーを正確に伝えることを最優先しました。

また、査読者が文章を読みやすいようにフォントを12 ptに統一し、ページ数が多くなるのを防ぐために、ダブルスペースは省きました。

参考までに、私の初稿は字数制限の1.5倍の量で投稿し、ページ数はfigureも入れて約50ページでした。

また、非常に細かいことですが、最終的に原稿をWordからPDFに変換する際、ページの一番上にパラグラフ間のスペース(空欄)が来てしまった場合、それを消すようにボスから指導されました。

この「査読者の読みやすさ」を徹底的に追求するボスの姿勢に私はビビりました。

原稿の具体的な書き方

原稿を書く上で大事な要素をリストアップしました:

1. 研究背景と仮説を丁寧に説明する。
2. 実験条件の根拠をその都度しっかりと提示する。
3. 読者がフィギュアを見なくても内容が伝わるように、実験結果の詳細を文章で書く。
4. 読者が実験データに到達しやすいように、フィギュアのどこの部分を指しているのか分かりやすくしておく。

例:(Figure 2a, 2nd row), (Figure 2a, 3rd row), (Figure 3c, column 1)など。

5. 結果の意義をしっかり書く。

読者がデータを見ればその凄さを分かってくれるだろうと考えてはダメ。得られた知見の新規性を魅力的な文章で書いておく。

6. 文献の引用を徹底する。

小さな情報でも先行報告があるものは、必ず引用を加える。私の原稿は元々、参考文献の数が48でしたが、PIの指摘後、75まで増えました。当然、色んな文献をさらに読み込む必要があり、とても大変な作業でした。

7. P値やIC50は、すべて文章中(Figure legendsでもok)に具体的な数値を載せる。
8. 先行論文を真似て深く考えずにやった実験の中で、展開が広げられない、結果の考察ができないデータは思い切って削除。

 

参考までに原稿を推敲していく際に、PIが私に何度も言ってきた言葉を載せておきます:

  • Be more explanatory and emphatic:もっと説明的で強調せよ。
  • Be more specific:より具体的に。

そんなこと言ったって…

ディスカッション部分の組み立て方

ディスカッションでは一般的に「実験結果の要約(Summary of Findings)」「先行研究との整合性(Consistency with Previous Studies)」「研究の限界(Limitations)」などについて書きます。それらに加えて、以下のポイントを1つ、2つ織り交ぜるといいでしょう:

1. メカニズムの考察(Mechanistic Insights)

得られた知見を徹底的に分析し、より深く掘り下げたメカニズムを考察する。先行研究との関連性も示す。私はこの部分を書くにあたって、かなりベーシックな論文を読み込む必要がありました。

2. 未解明な部分への言及(Future Research Directions)

今回の研究では明らかにしなかったが、追加で研究する意義がありそうな部分を挙げる。文献を引用しながら、その結果を予想する。

3. 研究成果の臨床的・学術的意義(Clinical and Scientific Impact)

今回の研究内容が究極的にどのように社会やサイエンスに貢献するのか明記する。

フィギュア作成のポイント

原稿の字数や引用数などは投稿規定を無視した一方、フィギュア作成のルールは徹底的に守り、いつアクセプトされてもいいような高品質なものを用意しました。もちろん、フィギュア作成には Adobe Illustrator を使いました(詳細は以下をご確認ください)。

A Step-by-Step Guide: Crafting Professional Scientific Figures with Illustrator
【illustrator】研究者には必須!?イラストレーターを使った論文Figure作成術!この記事は、研究者がイラストレーターを使って論文の図を作成する方法を具体的に解説しています。実際の使用例を共有することで、研究者がイラストレーターを効果的に活用するための知識と技術を習得できる内容となっています。...

今回、私が行った注意点は以下の通りです:

1. 基本設定
  • フォントサイズを最低でも6pt以上に設定
  • 線の太さは0.5pt以上
2. データの見せ方
  • Main Figureのデータが煩雑な場合は、重要な部分だけを抽出して直感的に分かるヒートマップを作製し、データ全体はSupplementary Figureに移す。
  • データ間の差が明確に分かるように、可能な限りデータを数値化する。
  • 有意差が明らかな場合でも、それが分かるようにP値を計算して*(アスタリスク)を付ける。
  • データの順番が特に決まっていない場合は、インパクトのあるデータを最初に配置し、読者の関心を引く。
3. 視覚的な工夫
  • 実験内容が分かりやすいように、適宜イラストを作成。
  • 論文全体を視覚的に要約した図(Graphical Abstract)を作成し、線や配置など、細部にまでこだわる。

ボスから学んだ効果的な英語表現

PIが加筆した英語表現の中で、今後使えそうなものをリストアップしました:

  • owing to ~:〜が原因で
  • equate to ~:〜に相当する

また、質の高い英文を書くときには形容詞を効果的に使う必要があります。ボスが私の文章に追加してきた形容詞を紹介します:effective, large, heavily, emerging, substantially

ちなみに、ボスが嫌いな形容詞*:early, novel
*これらは絶対に使ってはダメというわけではなく、使い方に少し注意が必要です。

その他、論文によく使われる効果的な形容詞のリストは以前にコチラでまとめました。

その他

1. データのリポジトリ

NGSを利用したシーケンスデータがある場合は、あらかじめデータベースにそれを登録しておき、投稿時点で査読者がそれにアクセス出来るようにしておきましょう。

2. ポジティブシンキングの重要性

私は投稿したジャーナルのexternal peer-reviewにいくのは正直、難しいんじゃないかと考えていました。そのため、ボスの批判的なコメントに一つ一つ向き合うのが、途中から億劫になっていました。

また、詳細は書けませんが、原稿の準備中にボスやコラボレーターから非常に大胆な提案を受けました。私は当初「いや、無理だろう。楽観が過ぎる。」と考えていましたが、ダメ元で周りの研究者に相談してみると、あれよ、あれよという間にパズルのピースがガシガシとはまり、その提案がなんと実現しました。その様子を、私はただただ茫然と見ていました。

この経験から、私はもっとポジティブにならんとだめだな、改めてと反省しました。ボスが圧倒的な前向き思考だったから良かったですが、私みたいに冷静ネガティブだったら、せっかくのチャンスを逃すところでした。

タイムライン

参考までに上記に挙げてきたポイントを反映するのにかかった時間も示しておきます。

私は論文を書き始めてから、6か月でボスを除くすべての共著者の意見を原稿に反映することが出来ました。

しかし、そこからボスのチェックが始まり、ボスのフィードバックを全て反映するのに、追加で3か月かかりました。

まとめ

以上が、私がPIから叩き込まれた論文投稿のノウハウです。

9ヶ月間にわたる論文執筆プロセスは決して楽なものではありませんでしたが、この経験は、今後の研究において大きな財産になると期待しています。

この記事が、これから論文執筆に挑む皆さんにとって一つの指針となり、執筆の励みやヒントになることを願っています。

ぜひ、いまの研究を最大限に輝かせる論文作成に挑戦してみてください!

それでは、また!