研究留学

【講演テーマ】医師が研究留学する意義

A picture of a person making a lecture.

ベタなタイトルで恐縮ですが、今回は私が先日おこなった講演の内容をまとめて、それをブログの記事にしたいと思います。

話は遡ること数日前、日本から30人もの医学部志望の高校生が私のいるアメリカの大学を見学しに来てくれました。

そして、そのプログラムの一環として「海外で働く医師のキャリア」について私が登壇する機会を頂きました。

このレクチャーでは、「医師が研究留学する意義」について特にフォーカスを当てたので、今回はその内容でお届け致します。

当日は臨床留学についても、知り合い達の情報をもとに発表しましたが、その部分は実体験に基づかないので、ブログでは割愛させて頂きます。

 

研究留学する意義(一般論)

まずは研究留学に限らず、海外で働くことのメリットについて羅列していきます。

  • 国外の豊富な人脈構築
  • 幅広い視点/価値観の取得
  • 日本を客観的に評価できるようになる
  • (医者として箔がつく)

上記は「臨床」と「研究」どちらの留学形式でも共通するメリットだと思います。

少し抽象的なものが多いですが、これらの経験はかけがえのない人生の宝物になってくれることでしょう。

 

では、次に「研究」留学のメリットに関して。

  • 世界最高レベルの研究に従事しやすい。
  • 潤沢な研究費
  • 共同研究の敷居の低さ
  • Quality of Lifeが比較的高い

補足すると上記については、どこに留学するかも重要なファクターです。

 

では、最後に思いついたデメリットについて。

  • 日本で診療をしている時より給料が低い。
  • 診療出来ない。医師としてのスキル低下。

デメリットはこんな所でしょうか。

他に何かあれば、こっそり教えて下さい。

 

なぜアメリカで研究をするのか?

次に、アメリカで研究するメリットについて述べていきます。

ここで「アメリカ」に限定するのは、単純に私が他の国の情報を知らないからです。

きっとアメリカ以外にも、研究が充実した国はたくさんあると思います。

 

莫大な研究費

2019年のデータでアメリカの研究開発費は68兆円。

一方、同年の日本は18兆円となっています*。

以上の数値から、いかにアメリカが研究に注力しているかが分かります。

*研究開発費の調査方法は国ごとに異なり、厳密には比較困難なのであくまで参考となる数値です。

1.1各国の研究開発費の国際比較, 科学技術・学術政策研究所, 閲覧日2023年7月30日, URL: https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2021/RM311_11.html#:~:text=%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AF%E4%B8%96%E7%95%8C%E7%AC%AC1,%E4%B8%AD%E6%9C%80%E3%82%82%E4%BC%B8%E3%81%B3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%82%8B%E3%80%82

実体験の話をすると、現在、私は何かの手違いによって有名なラボに所属していますが、やはりボスの取得している研究費は莫大です。

そして、そのお陰で思いついた実験は何でもやらせてもらっており、研究環境には大変満足しています。

研究者なら分かると思いますが、やはり強大なマネーパワーが投じられた実験データはそれだけで高いインパクトになる傾向があります。

例:シングルセル解析、空間プロテオーム解析など

 

ちなみに、バイオテック企業も優秀な研究者を揃えるため、多額の費用を投じており、以下の記事によると全米トップ7の会社では従業員の平均年収が5000万円以上となっており、

めっちゃ羨ましいです。すみません、心の声が漏れました。

Zachary Tracer, 2023年6月9日, The 7 best-paying biopharma companies where workers can take home more than $400,000, BUSINESS, 閲覧日: 2023年7月30日, URL: https://www.businessinsider.com/salaries-at-top-biotech-pharma-companies-endpoints-news-2023-6

 

アメリカの寄付文化

上記の研究開発費と少しリンクしますが、アメリカの寄付文化も研究を推進している大きな要因だと思います。

こちらは2020年のデータですが、アメリカの個人の寄付総額は34兆5,948円(現地通貨:3,241億ドル)1 である一方、日本では1兆2,126億円2となっています。

その額の大きさに圧倒されます。

ちなみに、これらの全てが研究費に使われているわけではなく、アメリカでの配分先は1位:宗教団体、2位:教育機関、3位:社会福祉団体となっています。

 

また余談ですが、アメリカでは建物など、あらゆるものに個人名が付けられています。

これは多くの場合において、それらの建物が個人の寄付によって建てられたことを示唆しています。

 

このようなアメリカの寄付文化を推し進める背景としては、以下のような要因が考えられています2

  • キリスト教的な教えや倫理的モラル
  • 貧富の格差を目の当たりにしているから
  • 税金対策など

(1) STELTER, 2021年6月15日, GIVING USA 2021: INSIDE THE NUMBERS, 閲覧日:2023年7月30日, URL: https://blog.stelter.com/2021/06/15/giving-usa-2021-inside-the-numbers/

(2) モノドネ, 2022年12月16日, 日本は寄付が少ないと言われるその理由は?, 閲覧日:2023年7月30日, URL: https://monodone.com/article/96

 

薬剤の開発につながる環境

これまで助けられなかった患者さんを救えるようにするためには、多くの場合で研究成果を「薬剤開発」につなげる必要があります*。

*他には診断機器の開発なども臨床還元につながると思います。

以下は2008年のだいぶ古いデータですが、薬剤開発の57%がアメリカで進めれていることが示されています。

*厳密には開発した国を一つに特定することは難しいので、このデータもあくまで参考値です。

DRUG COST FACTS, Shouldn’t the U.S. Government do more to regulate high drug prices?, 閲覧日:2023年7月30日, URL: https://www.drugcostfacts.org/drug-pricing-regulations

 

このように、アメリカで多くの医薬品が開発されている背景には、前述の研究費以外には実施している「臨床試験の数」も大きな要因だと思います。

2000年~2018年の各国の累積試験数をみると、アメリカが他国と比べて群を抜いているのがよく分かります。

*以下の参考文献より抜粋させて頂きました。

医薬産業政策研究所, 近年の国際共同治験の参加国の分析, 閲覧日: 2023年7月30日, URL: https://www.jpma.or.jp/opir/news/058/09.html

 

このように、自分の研究成果を実臨床に還元できる環境は医師-研究者(Physician-Scientist)見習いの私としては大きな魅力であり、これもアメリカで研究を行う1つの大きな意義だと思います。

実際、私の所属するラボでも研究から得られた知見に基づいて複数の臨床試験を実施しており、その敷居の低さに驚かされます。

 

共同研究がしやすい

最後に、地域によりますがアメリカでは共同研究がしやすいです。

私の大学の近くには、他の有名な大学やバイオ企業がたくさんあり、コラボするハードルが低くなっています。

実際、私のプロジェクトの1つも企業と連携しています。

 

その他、参考となる資料

 

 

Q&Aセッション 

プレゼンのあとには質疑応答の時間があり、たくさんの質問を頂きました。

そのうちで覚えているのは以下の通りです。

  1. これまで基礎研究をしてきた中で治療の発展に貢献したと感じたことはあったか。
  2. 呼吸器内科を目指した理由。
  3. 留学に際して、一番大変だったことは。
  4. 今後どのようなキャリアを考えているのか。
  5. 医者を目指した理由。

1. 研究内容は身元を隠すために省きますが、肺がんを強大な「マンモス」としたら、そのお尻を爪楊枝でつつくぐらいの貢献をした自負があると伝えさせて頂きました。精進いたします。

マンモスの画像

[かわいいフリー素材集いらすとや]より使用

 

2. 他の記事の内容を話しました。

呼吸器内科を選んだ理由
3分で分かる!呼吸器内科の5つの魅力!Introduction こんにちわー。 医師のかたわら研究もやっている こるく31 と言います。 サイトにお越し頂き、あ...

 

3. 文化の違いに慣れるのが一番大変でした。
例:何かを頼んでも話が進まない。商品が壊れて届く。靴磨きセットを買って使ったら逆に靴が汚くなった等。

 

ブログでは4.5.の返答はスキップしますが、高校生らしさもあるとてもいい質問だなと思いました。

 

まとめ

以上が私なりの「医師が研究留学する意義」でした。

 

渡米後はエフォートのほとんどを研究に費やしているので、このような非日常的な経験を出来たのは気分転換になり、とても有意義でした。

また、現在は患者さんの診療をしていないので、人に感謝されることもめっきり減ってしまいました。

しかし、このような機会で再び多くの人に感謝されたことは自己肯定感の維持にもつながったように思います。

それ以外にも、日本の未来を担う若者達との出会いは、非常に価値ある体験でした。

 

最後に、今回このような貴重な機会を与えて頂いた大学、また、海外留学支援団体の方々に深くお礼申し上げます。

ありがとうございました。