キャリア相談で失敗しないために:6年分のメモから見えた「良い相談相手」の選び方

2019年から今に至るまで、私はキャリアに関する相談をこれまで30人前後の方々にお願いしてきました。
相談相手はアカデミアの先生方に限らず、製薬企業(インダストリー)、コンサルティング、ベンチャーキャピタル(VC)など、業種もバックグラウンドも様々です。そして、相談した後には必ず手書きでメモを残すようにしていました。話の内容だけでなく、自分がその時に感じた印象や、後から振り返って「この人の助言は的確だったな」と思ったことも含めて記録しています。
先日、少し時間ができたので6年分のメモを一気に見返してみました。すると、面白いことに「良いアドバイスをくれた人」にはいくつかの共通点があることに気付きました。逆に言うと、せっかく時間を頂いたのにあまり収穫がなかった相談にも、それなりのパターンがありました。
今回はその気付きを、短い記事として共有したいと思います。また、私自身もこれまで全国の30人以上の医師からキャリア相談を受けてきた経験があり、そこから得た知見もこの記事に適宜、反映したいと思います。
この記事がこれからキャリアについて誰かに相談しようと考えている方に少しでも参考になれば幸いです。
自分と背景が近い人を選ぶ
まず、これは当たり前のようでいて意外と見落としがちなポイントです。
ここで言う「背景が近い」とは、全く同じキャリアパスを歩んでいるという意味ではありません。例えば、私のように臨床をやりながら基礎研究を続けてきた人間の場合、MDとしての臨床経験がある方、あるいはPhDとしての研究経験がある方など、自分のバックグラウンドのどこかが重なっていれば十分です。共通の土台があるからこそ、こちらの状況を深く理解した上での具体的なアドバイスが期待できます。逆に、相手の経歴が自分のそれとかけ離れていると、話は面白くてもアドバイスの実用性はどうしても下がってしまいます。
背景が近い人に相談するもう一つのメリットは、自分の強みを正しく評価してもらいやすいことです。私の経験上、特にリクルーターを介した相談では、自分のスキルや経歴を過小評価されたり、本当の強みが伝わりきらないことが少なくありませんでした。同じフィールドを歩んできた人であれば、こちらの経験の価値を肌感覚で理解してくれるので、的外れな評価に振り回されるリスクが減ります。
「こうすれば良かった」を率直に語ってくれる人
6年分のメモを振り返って、最も印象に残っているのがこのポイントかもしれません。
本当に参考になった方々は、自分の成功体験よりも「あの時こうしていれば」「今ならこうする」といった本音を率直に話してくれました。成功談はどうしても結果論になりがちですが、過去の反省や「やり直せるならこうしたい」という話の中には、自分がまだ回避できる落とし穴のヒントが詰まっています。
一方で、あまり収穫がなかった相談を振り返ると、相手が終始ご自身の実績を語り、こちらの同意を求めるような流れになっていたケースが目立ちました。もちろん悪意はないのでしょうが、結果として「すごいですね」と相槌を打つ時間が増え、こちらの相談したかった内容に深く踏み込んでもらえないまま終わってしまうことがありました。
自分が目指すキャリアを「実際に歩んでいる人」に聞く
このポイントは、言い換えると「その道で成功している人に聞く」ということです。当然のように聞こえますが、意外とこの原則から外れた相談をしてしまうことがあります。
例えば、PIを目指しているのであれば、実際にPIになった人に話を聞くべきであって、PIを目指したけれどならなかった人に「PIへのなり方」を聞いても、得られる情報には限界があります。もちろん、その方の経験から学べることもありますが、成功に至るまでの具体的なステップや判断基準については、やはり実際にそのポジションに就いた方の話の方が参考になります。
もう一つ注意したいのが、本人が現在の業界やポジションに不満を持っているケースです。こういった方にキャリア相談をすると、どうしてもネガティブな情報に偏りがちになります。「この業界はやめた方がいい」「この道は報われない」といった助言は、相手自身の不満の投影であることも少なくありません。相談相手が自分のキャリアに納得感を持っているかどうかは、アドバイスの質に大きく影響すると感じています。
直接的な利害関係のない「第三者」に相談する
これは少しデリケートですが、大事なことだと思います。
例えば、自分の直属の上司やボスにキャリアの相談をすると、相手にとっても利害が絡む話になりやすく、どうしてもフラットな意見が得にくくなります。「ラボに残ってほしい」「このプロジェクトを続けてほしい」といった思惑が、無意識にアドバイスに影響することは十分にあり得ます。
もちろん、ボスとの信頼関係の中でオープンに話せるのが最も理想的ですが、セカンドオピニオンとして利害関係のない第三者の意見を持っておくことは、冷静な判断をする上で非常に有効だと感じました。
最終的に自分のキャリアをデザイン/選択するのはあなた自身なので、後悔がないように色んな方から情報収集しましょう。
そのキャリアの「5〜10年先」を歩んでいる人がいい
これは完全に個人的な感覚ですが、相談相手は自分よりもキャリアが5〜10年ほど先にいる方が良いと思っています。
ここで言う「5〜10年」は実年齢のことではなく、キャリアのステージとしての距離感です。同期や近い世代の仲間との会話も刺激的ではありますが、キャリア相談という文脈では「少し先の未来を既に経験している人」の視座がやはり貴重です。自分が今まさに悩んでいることを、数年前に同じように悩み、既に答えを出した人の話には、説得力と具体性があります。
逆に、キャリアのステージがあまりに離れすぎると、業界の状況や選択肢が当時と変わっていたり、時代背景が違いすぎて参考にしにくいこともあります。5〜10年先ぐらいが、ちょうどリアリティのある助言をもらえる距離感ではないかと感じています。
面倒見のいい人を大切にする
これは当然と言えば当然ですが、あえて書いておきたいポイントです。
キャリア相談は1回きりで終わるものではなく、その後も関係が続くことが理想です。実際に、私がいま最も信頼している相談相手の何人かは、最初の相談から数年経った今でも折に触れて連絡をくれたり、新しい情報を共有してくれたりします。そういった方々に共通しているのは、純粋に後輩の成長を応援してくれる姿勢です。忙しい中でも丁寧に返信をくれる、他の人を紹介してくれる、といった「面倒見の良さ」は、アドバイスの質そのものと同じぐらい大事な要素だと感じています。
ただし、正直に言うと、こういう方はなかなかいません。出会えたら本当にラッキーだと思った方がいいです。だからこそ、もしそういう方に巡り合えたら、その関係を大切にしてほしいと思います。

おまけ:相談する側として心がけたいこと
最後に、相談を「受ける側」ではなく「する側」として、6年間で自分なりに学んだことも少し書いておきます。
まず前提として、キャリア相談は「早すぎる」ぐらいがちょうどいいということをお伝えしたいです。キャリアの情報は、聞いてすぐに活かせるものばかりではありません。例えば、グリーンカードの取得には数年単位の準備が必要ですし、次のキャリアのための業績作りも一朝一夕にはいきません。つまり、「そろそろ動こうかな」と思った時にはもう遅い、ということが普通に起こり得ます。私の感覚では、実際にアクションを起こしたい時期の2〜3年前から情報収集を始めておくと、選択肢を十分に検討する余裕が生まれます。焦って相談すると、どうしても目の前の選択肢だけに目が行きがちですが、早めに動いておけば「そもそもこの道でいいのか」という根本的な問いにも向き合えます。
次に、相手のバックグラウンドを事前にしっかり下調べしておくことも大切です。論文リスト、経歴、最近の活動などを把握した上で臨むと、表面的な質問をスキップして、最初からより深い議論に入ることができます。相手にとっても「ちゃんと調べてきてくれたんだな」と伝わり、それだけで会話の密度が変わります。また、下調べすることで、私が前述した理想の相談相手を探す上でも参考になります。
他には、長期的なwin-winの関係を意識すること。相談は一方的に教えてもらう場になりがちですが、自分が相手に提供できるものはないか、一度は考えてみる価値があります。例えば、自分の専門領域の最新情報を共有する、自分のネットワークから相手が求めている人を紹介する、といった形で貢献できる場面は意外とあります。無理に何かを提供する必要はありませんが、「この人と話すとこちらも得るものがある」と思ってもらえる関係を目指すことで、一度きりの相談が長期的なメンターシップに発展しやすくなります。
最後に、メモを残すこと。人間は忘れる生き物なので、相談直後に感じた印象やキーワードを書き留めておくと、後から見返した時に思った以上に役立ちます。そしてもう一つ、メモを残すことには実用的な効果以外にも大事な意味があると思っています。それは、自分がこれまでどれだけ多くの人にサポートしてもらってきたかを忘れないということです。6年分のメモを読み返していると、忙しい中で時間を割いてくれた方々への感謝の気持ちが改めて湧いてきます。キャリアは一人で作るものではないということを、メモは静かに思い出させてくれます。
まとめ
キャリア相談は、誰に聞くかで得られるものが大きく変わります。
6年分のメモを振り返って見えてきた「良い相談相手」の共通点をまとめると、背景が近く、面倒見が良く、本音を率直に語ってくれて、その道で成功していて、利害関係がなく、キャリアの少し先を歩んでいる方、ということになります。
全ての条件を満たす人を見つけるのは簡単ではありませんが、相談相手を選ぶ際のチェックリストとして頭の片隅に置いておくと、限られた時間と機会をより有効に使えるのではないかと思います。
キャリアに正解はありませんが、良い相談相手がいるだけで、少なくとも「納得のいく選択」に近づける。6年間の相談を通じて、今はそう感じています。