呼吸器内科

新型コロナの最前線より。

The COVID-19 Frontline: Insights and Experiences as a Respiratory Physician

私事ですが、2020年4月から「とある市中病院」の呼吸器内科医として働くことになりました。

そして、例に漏れず、入職日からCOVID-19の診療を最前線で行っています。

現在は、臨床が忙しく、なおかつ、感染対策として大学が立ち入り禁止のため、基礎研究からは一旦離れています。

そのため、このサイトに載せる記事がしばらく思いつきませんでした。

 

しかし、思い返すと、COVID-19の診療もなかなか出来ない経験だと気づき、今回はこれまでに自分が経験したことを備忘録として残したいと思います。

今回の記事で1つ注意して頂きたいのは、COVID-19の診療はその病院が担っている役割などによって大きく異なるということです。

そのため、今回はあくまで私個人の経験談となります。

 

診療を始めた頃

当初、私は「肺癌の診療」をサポートするために「とある市中病院」へ出向が決まっていました。

しかし、3月頃になると少しずつ雲行きが怪しくなり、COVID-19の国内の罹患者数が急激に増え、自分が「呼吸器内科医として診療の最前線に立たなければならない」という自覚を持つようになりました。

働き始めた4月なっても罹患者数はどんどん増え、さらには別の病院で院内感染が多発するようになります。

そのため、特に4月上旬頃はこの未知のウィルスに対して、底知れぬ恐怖感を抱いていました。

恐怖を後押しした要因として、以下が挙げられます。

・ニューヨークの医療の現状を知っていたこと。

・重症化の割合など、日本人のデータがなかったこと。

・毎日、罹患者数が前日を上回り、先行きが見えなかったこと。

・今まで勤務していた大学とのマンパワーの違い。診療科によって温度差があったこと。

・感染力の高さ:最前線で診療していた他院の内科医も罹患して入院していた。

・防護服などの供給への懸念。

赴任した当初は、カルテの使い方もままならない新しい環境と相まってCOVID-19の診療も加わり、精神的にも肉体的にもなかなかハードでした。

この頃はなかなか寝つきが悪いような日もありましたが、時間を見つけては映画などをみて、なるべくモチベーションを上げるように努めていました。

 

1カ月過ぎてみて

COVID-19の診療を開始してから一か月ほどが過ぎ、症例数を重ねたことで意外にも少しずつ診療に慣れてきました。

また、罹患者数も上昇から減少に転じ、入院患者数も減りました。

そして、自分が感染に気づいていないだけの可能性もありますが、幸運にもこれまで体調を崩さずに診療を続けることが出来ました。

 

酸素化が保てない重症の患者さんに迅速導入気管挿管 Rapid Sequence Incuabation を行うために、深夜2時に同僚に呼び出されたこともありましたが、既に遠い昔のようです。

この時の経験のおかげで、診療に対する自信も養うことが出来ました。

そして、5月になると、それまで大いに懸念材料だった労災認定や危険手当など、医療従事者の福祉が少しずつ改善されるようになりました。

 

最後に

今回は短めでしたが、以上が、2020年5月時点での私のCOVID-19 診療に対する感想です。

私は「未来」の患者さんのために肺がんの基礎研究に従事したいと考えていましたが、有意義な研究を行うには「現在」の社会情勢が安定している必要があるのだと、コロナ禍を通じて実感しました。

そして、自分が学位を取得出来るまで研究に専念できたのは、「運が良かった」と感じるようにもなりました。

今後、ロックダウンが解除された後にコロナ禍がどうなるかは誰にも分かりません。

しかし、世界的な危機の中で自分には医療を行使できる資格があることに感謝し、今後もCOVID-19の診療を留学するまで継続していきたいと思います。

最後になりますが、これまでを思い返すと、診療を継続出来たのは「誰よりも働き続ける当科の部長」や「愚痴を言い合える呼吸器内科の同僚」に恵まれたのが大きいです。

やっぱり「どんな時でも人間関係は大事なんだな」と感じたことを未来の自分に向けてもコメントしておきます。

 

以上になります。

最期まで読んで頂きありがとうございました。