研究留学

アメリカのポスドクフェローシップ成功ガイド:助成金獲得の秘訣と申請戦略

Guide to a Successful Postdoctoral Fellowship in the United States

さっそくですが、この度アメリカの有名なフェローシップ(助成金)に採択されました。

合計金額は日本円に換算すると数千万円に昇ります。また、日本人MDとしての受賞は約80年間の歴史の中で、恐らく私が2人目となりました。

申請してみて分かったことが色々とあったので、今回はその内容を記事にしたいと思います。

 

ご存じの通り、日本の留学助成金は最初の1-2年間をサポートしてくれるものが多い反面、それ以降のものになるとガクっと数が減ります。

今回の記事は、アメリカで研究留学を開始して、次の助成金を獲りたい方に特に参考となると思います。

皆さんが私のあとに続いてくれるように、タマシイ的なやつを込めて書いたので、ぜひ参考にしてみて下さい!

 

ちなみに、日本の助成金については2つの記事にまとめたので、興味がある方はそちらを一読下さい。


*2024年5月7日追記

ビッグニュース!この記事を参考にして私と同じフェローシップを獲得した!とのご連絡を頂きました:) こういうメッセージを頂けるのが執筆していて一番嬉しいですね!

*2024年6月14日追記
アメリカの助成金ではないですが、この記事をきっかけに海外のグラントに挑戦してみたところ、なんと、約4500万円のフェローシップを獲得した!とご連絡を頂きました。ブログをきっかけに知り合った方だったので、非常に嬉しいです!おめでとうございます!

はじめに

今回はポスドクを開始して、2年目以降に申請できる助成金をアメリカと日本の両方で探しました。

私はアメリカではもちろん外国人扱いであり、永住権を持っていません。しかし、それを差し引いても、結果的にアメリカの方が日本より申請できる助成金の数がなんと2倍以上ありました。

アメリカ凄し。

 

申請資格で大事な項目

アメリカの助成金について、300種類ほどその適応資格に目を通しましたが、以下の項目が特に重要そうです。

・永住権があるか。

・PhDを取ってから何年か(4, 5年以内が1つの大きな境目か)。

・ラボに配属して何年か。

留学前、留学初期の方は自分がPhDを取ってから何年経っているかを常に意識するようにしましょう。

アメリカの大学院生が学位論文を投稿した段階、もしくはその前から、ポスドクのラボにアプライを始める背景には、こういったことが関係しているかもしれません。

 

また、グラントは永住権を必要としているものが多いため、その縛りがないものは必然的に競争率が高くなっている印象を受けました。

そして、それに影響してか、そのようなグラントは準備書類が比較的多くなっています。

 

アメリカの助成金の探し方

次に、皆さんが気になる助成金の探し方について。

私は以下のサイトを参考にして、助成金のタイトルから適応がありそうなものを片っ端から調べていきました。

癌関連の研究をされている方であれば、AACR主催のフェローシップも一度確認してもいいかもしれません。応募する年度によってeligibilityが変わったりしています。

American Association for Cancer Research, Current Funding Opportunities

 

留学後に申請可能なアメリカの助成金(具体例)

あくまで一例ですが、私の主な条件*だと以下のような助成金が応募可能でした。

  1. PhRMA Foundation Postdoctoral Fellowships, Translational Research
  2. American Cancer Society, Postdoctoral Fellowships
  3. Lung Cancer Research Foundation, LCRF Pilot Grant Program
  4. PhRMA Foundation Postdoctoral Fellowships, Drug Discovery
  5. Helen Hay Whitney Foundation Fellowship
  6. American Heart Association Postdoctoral fellowship
  7. Life Sciences Research Foundation Fellowship
  8. Jane Coffin Childs Fellowship

その他、アメリカ産に拘らなければ Human Frontier Science Programのフェローシップも人によってはいい適応かもしれません。 

また、私のラボ出身の若手PIからBurroughs Wellcome Fundというのも教えてもらいました。こちらはアメリカで独立を目指すポスドク向けのもので、永住権は必要なさそうです。しかし、取得したPhDの分野に指定がありそうでした。

*私の主な条件:留学2年目以降で、研究テーマが肺癌。永住権なし。PhD取得して2年未満。

*応募資格は変更されたり、私が一部誤解している可能性もあるので参考にする場合は自己責任でお願いします。あくまで一例なので、ご自身で適応があるものを探して下さい。

 

留学後に申請可能な日本の助成金(具体例)

日本のだと、こんな感じでしょうか。

  1. JSPS 日本学術振興会海外特別研究員
  2. 上原記念生命科学財団
  3. 早石修記念海外留学助成

 

申請書の作成について

ここからは実際に申請書をつくってみて、気づいたことを記載していきます。

幸い、私は1つだけ応募してそれが採択されたので、情報量が少ないかもしれません。

申請システム

ProposalCentralというWEBの申請システムがあり、そこから書類を作成しました。

多くの助成金がこのシステムを採用していると思います。

ORCIDのアカウントを持っている方は、それでログイン出来ます。

バディシステム

これは私が勝手に命名しました(笑)

私が応募した助成金の申請には、助成機関と研究機関同士の複雑な規定があり、専門の方の介入が必要でした。

なので、大学職員の方とタッグを組んでProposalCentralで申請書を完成させています。

私の担当者は非常に親切で、エッセイの部分は文章を読んで献身的な意見までくれました。

また、採択後の財団側とのやり取りも、この相棒(バディ)が手厚くサポートしてくれています。

すべての助成金でこのバディシステムがあるかは不明ですが「また他の助成金を応募する時は、締め切り1カ月前までに連絡してね!」とバディに言われたので、きっとあるんでしょう。

ちなみに、助成金に採択された時は一緒に心から喜んでくれて、このバディシステム結構好きです。日本だと完全に個人戦ですよね。ただ、周りに聞くと担当者の当たり外れはありそうです。

推薦書

日本の助成金では大抵1-2人ぐらいの推薦書を準備していましたが、私が申請したアメリカのものはなんと、計6人分もの推薦書を準備しました。

なので、計6人の教授達に連絡をとる必要があったので、それだけでも結構大変でした。

業績

書いてみた印象として、教育経験を具体的に書く箇所が多かったです。

あと学会発表の経験はNIH既定のBiosketchでは書くスペースがないのが意外でした。なので、アメリカでは学会発表は業績になりにくいのかもしれません。一方、学会で受賞したAwardなどは書けます。

*Biosketch: 助成金を申請する際に使用するCVのようなもの

完全に余談ですが、日本の助成金を応募する時はブログを運営していることは特に書いていませんが、アメリカのやつには試しに書いてみました。

どういう印象を与えたかは不明ですが、採用されたからには悪い印象ではなかったと思います笑

リサーチプロポーザル(研究計画書)

自分が書いたものはトータル5頁、参考文献含めて7頁でした。

テンプレートはなく、Microsoft Wordでひたすらビッシリ文字を埋めていく感じです(図の挿入可)。

また、リサーチプロポーザルの中には以下の項目を書くように指定がありました。

・Abstract

・Background

・Project Aim/Schedule

・Significance

エッセイ(随筆)

お題を出されて1-2頁の文章を書くものが複数ありました。

テーマは以下の感じで、なかなかエグかったです。

  • 「ポスドク期間の具体的なトレーニングスケジュールを示せ」
  • 「教育経験を述べよ」
  • 「長期のキャリア戦略は?どのようにサイエンスに貢献するか?」
  • 「この助成金があなたの研究やキャリアに与えるインパクトは?」
  • 「PhDの研究内容を述べよ。また、それがサイエンスに与えた影響は?」
  • 「研究者を目指す理由」

など

ちなみに、Wordのレイアウトは「Letter」そして、余白設定はすべて「0.5 inch」に指定されました。

その他

上記以外には「PIがこれまで指導した研究者のリスト」も作成しました。

そこでは彼らがラボを去ったあと、どのようなポジションに就いたかまで明記しています。

またもう一つ気付いた点として、申請の全工程を通して、人種・年齢・性別・婚姻関係の有無などを聞かれることは一切ありませんでした。

日本のものでは身長・体重・胸囲(??)まで書かされるものがあったので、一つの大きな違いだと思います。

ピットフォール

申請書類は必ずしもテンプレートが用意されていません。

そのため、自分でワードのファイルを作ることになりますが、その際、レイアウトを「Letter」に変更する必要があります。

日本のワードでは、初期状態だとA4に設定されているので注意が必要です。

私の場合は、タッグを組んでいた大学職員の方が最終チェックの段階で気付いてくれました。

 

大量の英文を書く方法

話は若干逸れますが、大量の英文を書く方法についても私の最新メソッドを共有したいと思います。

  • まず始めに、論理的で無駄のない文章を書くために日本語でざっと大枠を書きます。
  • 次に、ブレインストーミングで思いついた自分的にイケてる文章をパズルのように当てはめていき、最後に現代AIの力を借りて文章を英訳していきます。

お馴染みのDeeplGrammarlyWordtuneの連続コンボは私の中でも常套手段です。

日本語もそうですが、英文でも洗練された綺麗な文章というのは一目で分かり、読者に好印象を与えていきます。

なので、最後にWordtuneを使ったエレガントな文章で一連のコンボを終わらせると、審査員の心にCritical Hitしやすいと思います。

 

一方「現代AIに頼ってけしからん!」「英語力が身につかない!」という方もいるでしょう。

ありがとうございます。

ただ、今回1カ月間ほど濃厚な英語漬けの日々を続けたところ、副次効果的に英語力が上がったのを実感しています。

英文を書きやすくなったのは当然ながら、論文を読むスピードも速くなり、さらには英会話も少し楽になりました。

というのも、上述のコンボも必殺コンボではなく、どうしても前後関係を無視した違和感のある文章になりやすいです。

なので、ある程度の修正が毎回必要であり、その作業の中で英語力がブラッシュアップされたように思います。

 

上記以外には、ライティングスキル全般のアドバイスも、他の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

Enhancing Academic Writing Skills for Research, Funding, and Global Opportunities
文章力を磨く:論文、助成金、海外留学に役立つライティングスキル向上ガイド科学研究者と学生のための究極のライティングガイド。論文執筆、助成金申請、海外留学に必要なライティングスキルを向上させるための実用的ヒントや戦略を提供。あなたの文章力を次のレベルへと引き上げましょう。...

 

申請書の作成以外にやったこと

採択にどこまで影響したか分かりませんが、私は採点者が自分の名前をネットで検索することを想定して、申請書を提出したあとにGoogle Scholar, Research Gate, LinkedInなどのソーシャルメディアを充実させておきました。

これはポスドクの打診前にも行っています。

ちなみに、私が頂いたフォローシップは特に宣伝・広告にも力を入れており、採択後にはツイッターやLinkedInのアカウントの開示が求められ、個人での採択発表を奨励している印象を受けました。

 

申請からフェローシップの開始まで

日本の留学助成金は基本的に申請書を提出した次年度から補助金が支払われ、タイムラグが発生します。

具体的には、最も有名な海外学振は5月に申請書の締め切りを行い、結果通知は8月~10月頃、そして助成が開始されるのは来年の4月以降になります。

 

一方、私が今回採択されたものは、申請書の提出からフェローシップ開始までの期間は4か月でした。

留学直後に応募した日本の助成金は見事に不採択だったので、この早いスパンで助成が始まるシステムは本当に有難かったです。

そして、結果的に助成金がほぼ途切れずにポスドクを過ごすことが出来ています。

 

ちなみに、日本から不採択通知を受けて絶望していた時のツイートがこちら。

ポスドクは辛いことも多いですが、心が折れずに研究を続けていて良かったなと思います。

 

おまけ:ラボメイトからの助言 (2023/11/02 追記)

最後に、アメリカのフェローシップに応募する際に参考になるであろう、私のラボメイトであるMs. Jさんからのアドバイスも紹介しておきます。

Ms. Jさんは、今年からラボに加わった優秀なポスドクで、研究室に来て早々に有名なポスドクフェローシップを獲得しました。

彼女が受賞後のインタビューで語ったアドバイスの内容を、彼女の許可を得て以下に要約しました。

1. 過去のフェローを調べて、彼らに連絡を取る。

これは凄く大事ですね。

実際、私も今回の応募にあたって2人ほどコンタクトを取り、ありがたいことに申請書の一部を拝見することが出来ました。

また、受賞者と話すことで選考委員が何を求めているか理解を深めることができます。

2. 研究プロポーザルを書いていくとき、「これまでの専門分野がポスドクの研究テーマとどのように統合され、新たなスキルの習得や独自の研究路線の開発にどのように寄与するのか」を明確にする。

これも納得です。

特にポスドクのフェローシップでは、今後Principle Investigatorに進んでいく上で「独自性を出すための訓練をどのように行っていくか」を明示することは重要だと思います。

私の応募したフェローシップでは、エッセイ部分で同じことが聞かれました。

3. 幅広い分野の人からフィードバックを求める。

これは、言わずもがなですね。

可能であれば、専門外の人々も含め、多様な視点からあなたの研究提案を評価してもらいましょう。

4. キャリア開発部門との積極的な連携

私の所属する大学では、ポスドクをサポートするキャリア開発部門が存在し、そこのスタッフは全員PhD取得者によって構成されています。ここでは、様々なキャリア相談に加えて、申請書のフィードバックも受けることが出来ます。

なお、私はこのことを知らず、特に利用はしませんでした。

 

まとめ

以上が、アメリカのグラントを申請してみて気付いたことの全てになります。

最終的に準備した書類は実に50ページに及び、作成には3-4週間ほどかかりました。

これを日常的にこなし、莫大な研究費を獲得している私のボスはもうアッパレです。

 

正直、英文で申請書を書くのは慣れておらず、日本の助成金を全部申請した方が楽+採用される確率も高かったかもしれません。

しかし、今回あえてアメリカの大型グラントに挑戦して得たものは大きかったです。

 

例えば、ポスドクとしての「トレーニングスケジュール」を書いたことで、有用そうなワークショップを幾つか見つけることが出来ました。

また、大型グラントを獲得すると社会的なインパクトが大きく、自分のキャリア形成にも大きく影響します。

そして、何と言っても助成額が大きいので、私のPIも所属機関も大喜びしてくれました。

 

前述のように、私が申請したフェローシップは50ページに及びましたが、全ての助成金がそれを要求してくるわけではありません。

実は不採択を見越して、締め切りが近い他のフェローシップも書類を一通り確認したところ、多くのものが約半分ぐらいの労力で済みそうでした。

なので、初めての海外フェローシップは慣れないことが多く、最初はためらいがちだと思いますが、採択されればその分見返りも大きく、興味を持った方はぜひ挑んでみて下さい!

ちなみに、海外のフェローシップを獲得するとお金以外にどんなメリットがあるのか、次の記事にまとめたので興味がある方は読んでみて下さい。

Practical Benefits of Securing a Fellowship in the US: Beyond Financial Support
アメリカでフェローシップを得ることの実際の恩恵:金銭的な助成を超えてこの記事では、アメリカでのフェローシップ獲得による実際の恩恵について解説します。金銭的な支援を超えた経験、学術講演やネットワーキング、フェロー間のコミュニティ形成など、個人の体験を基にした情報を紹介いたします。...

 

最後にプチ自慢ですが、このブログの以下の記事を参考にして、ポスドクのポジションをゲットした!というお知らせをここ最近、度々頂くことが出来ました。

引き続き、このサイトが医師や研究者の皆さんに役立てれば、ブロガー冥利に尽きます!本職は違うんですけどね笑

 

今後も何か有用そうなことがあったら、シェアしていきます。

追加で聞きたいことがありましたら遠慮なく質問して下さい。

以上、最後まで読んで頂きありがとうございました。